第1章

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「私は名乗ったんです!貴方も名前を教えなさい」 頬をぷくぅー、っと膨らませながら腰に手を当てるララス。精一杯自分を大きく見せようと頑張っているのだ。 「あー、名前?名前ね。やべぇ困った」 土で汚れるのも構わずその場に胡座をかく少年。生まれた瞬間から隔離され、実験の為に引き渡されたのだ。名前等付けられた覚えがない。 腕を組んでうんうん唸り続けようやくそれっぽい名前を思い付いた様だ。 「サイサ」 「サイサ?変な名前ですね」 「タピオカデスも変な名前だけどな」 「ララスです!そっちは家名!」 「ああ?なんで名前区切ってんの?バカだろメンドイなー」 「そういうものなんです!」 「あ、そう」 名前に関してはもう関心を失い、退屈そうに欠伸を漏らしてからサイサは立ち上がる。土の付いた白い服をバンバン叩き、腕を伸ばして背筋を伸ばした。 「~~~~っん、じゃあ俺もう行くわ。……あー、なんだっけ?こういう時になんか言う挨拶?言葉?が有った気がするんだけど」 「え?……ごきげんよう?」 「何それ?……あ、思い出したや。サヨナラ?タピオカデス」 「ララスです!!」 「ありゃ、悪い悪い。サヨナラ、ララス!夜に出歩くのも大概にしろよ」 そう言いながら、サイサの体はすぅー、っと透ける様にして消えた。 余りの事に驚愕したララスは口元を押さえて瞠目する。転移などの場所と場所を繋ぐ移動魔法は存在するが、姿を消す魔法などララスは聞いたことがない。 その後は、城を抜け出したララスに気付いた近衛隊がララスを見つけ出して、抜け出した目的を代わりに達成して城に連れて帰った。 「月光の花、夜にしか咲かない上、月の光が強く当たらないと咲かない稀少な花」 連れられていくララスの手に握られた一輪の花を思い出しながら、サイサは実体化して宙を漂う。 自身の手を開いたり閉じたりして、もう人間ではない何者かになってしまった実感を、サイサはこの時感じた。 「どうでも良い知識は覚えさせてきた癖に、別れの挨拶ひとつ教えちゃくれなかったな」 この場所に来る前に、手にかけた己の世話係りの事を思い出して、サイサは顔をしかめた。 「サヨナラ、世話係り。サヨナラ、訓練相手。サヨナラ、――。サヨナラ、――。サヨナラ――」 ひとりひとり、その姿を思い出しながら別れの言葉を紡いでいき、そして最後にサイサはこう言った。 「サヨナラ、人間だった俺」
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