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「母さんはなんでか喜んでるし、父さんは俺の為とか言って一日中仕事仕事仕事、この法律が出来てから俺の生活は滅茶苦茶だ!」
「ん?んー、……ん?シューは喜ばれるのが嫌なのか?」
早朝とはいえ、人が全く居ない訳ではなく遠くに人の姿が見え始めてサイサは浮かぶのを止める。
「……前まではさ。今日はどこ行ったとか、どんな魔物をどんな風に倒したとか、夕食の時に話すと母さんと父さんは楽しそうに聞いてたんだ。それが今じゃそんな事より勉強勉強って、嫌になる」
「ほぉー、期待されてんだなー」
「そんな期待俺は要らないんだよ!」
「望まぬ期待って奴だな」
苛立ちと一緒に溜め息を吐くシュバルツの横で、サイサは遠くを見つめる。
一番成功確率が高いという事で期待され、一番良い設備で日夜ノルマをこなしていた人間だった頃のサイサ。
脱走などせず、言われるがままに動く人形で在ったなら、今頃どれだけの悲劇を回避し、どれだけの人を救えたのか。
それを思っても、サイサは国を赦す気にはなれなかった。
そこでふと、サイサは疑問を抱いた。
「あ、シュー自身はどうなんだ?」
「あ?」
「だから魔法学校に通いたいの?通いたくないの?」
そう聞くと、シュバルツは気まずそうに顔を逸らした。
「学校ってのに、憧れてない、訳じゃない」
「ん?つまり通いたいってこと?」
「そうだよ!悪いか!」
生まれてこの方学校に通った事のないシュバルツ。家はどちらかと言えば貧しい方で、父親は日が昇ると同時に稼ぎに出掛け、母親は家事をしながら内職をしている。
学校は基本的に大金が掛かり、貴族や一部の裕福な家庭しか通う事はない。
シュバルツは早い頃にギルドに所属し、図書室等で魔物の生態と一緒に独学で教養を得ているのが現状である。
「取り敢えずひとつ決定」
「は?何が?」
「んー、やる事、かねー?」
羞恥心で顔を赤くするシュバルツにサイサは殆んど上の空で応えた。
国に対する復讐内容は空っぽで、絶賛募集中状態。内容が無駄にプライドの高い上層部等に取って屈辱的であれば尚よし。平民の為に資金援助等、プライドの塊である上層部に取っては屈辱的であるに違いない。
そんなこんなでギルド前に到着し、サイサはなんの挨拶もなくギルド前を通過した。変なやり取りをして勘繰られたくないというシュバルツの意思を尊重しているのだ。
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