第1章

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その獣医さんへの 《好き》 は今までとは違っていた。 何故か会いたくないのだ。 しかし、そうもいかないので、愛犬の定期検診で病院へ行くと、思いが爆発しそうになり、告白をしそうになった時もあった。 会いたくないのに会えないと家で泣いてしまったり、会いたくないのに会うと告白しそうになったりと、自分でもよく分からなかった。 そんなある日、新聞販売店で勤務中、折り込みチラシを持って来る男性に声を掛けられた。 その男性はチラシを店内に置き、店を出て車に乗ったのだが、中々発進せずに暫く店の前に居た。そして車から再度降りて、もう一度店内に入って来たのだ。そして私にこう言った。 「あのー、最近お姉さん綺麗になったなって思ってたんですよ。自分33なんですけど何歳なんですか?」 突然の事で驚きで目が点になってしまった。 そんな事を言われたのは初めてだった。 私は、その当時21歳だったので年齢を伝えると、その男性は、こう続けた。 「若いですね…!あの、今度遊びにでも行きましょうよ!」 申し訳無いが、その男性はタイプでは無かった。 こんな私が言うのもどうかと思うが。 私は「考えておきます。」と素っ気なく返してしまった。 それから数日は、タイプでは無いと思いつつも、そのような事を言われたのは初めてであり、嬉しかった気持ちも大きく感じていたので、次に彼が来たら何と言おう!と、一人で毎日ドキドキしていた。 しかし、それから彼が来る事は無くなってしまった。 私はバカにされただけだったのか、彼女が出来たのか、仕事を辞めてしまったのか、異動になったのか、真実は分からないが、呆気なく終わってしまった。
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