第1章

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人生の帰路。 多分、俺はそこに立っていた。 高校を卒業したての俺は傲慢だった。 自分の撮った写真で誰かを感動させたいと思っていた。世界に問題を突きつけたいと思っていた。一枚の写真で誰かの人生を変えてやろうと思っていた。 写真の専門学校を卒業すると俺は普通に会社員になった。 わかったんだ。俺には才能は無いと…… 自信がある作品を何度も発表したが、世間には認められなかった。 価値がつく写真、飯の食える写真ってのは、芸能人の熱愛やスーパーのチラシ…… 撮りたくない物を撮ってしがみつく必要はないと思った。 現実を知り青臭い夢を封印した。 そして写真となんの関係も無い会社に10年勤めて課長になった。上司に可愛がられて、後輩に慕われる。今の俺は子供の頃に思い描いた姿とは違うが満たされている。仕事も好きだ。これが社会の中の俺の居場所だ。 なのに…… 今頃、俺の写真を認めてくれる人が現れた。 有名な写真家で世界中を飛び回り、人を感動させる。彼の写真に魅せらた人間の俺も一人だ。 そんな憧れの写真家に、助手として撮影旅行に誘われている。 収入は今の半分。 危険な地域に行くから命が危険に晒されるかもしれない。 積み上げてきた社会の中の俺と夢見ていた時の俺の狭間で悩んでいた。 今更、ゼロからスタートするの勇気がなかった。 ものすごく、怖かった。 そんな俺は、久しぶりに実家に帰ることにした。
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