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不思議と手が浴槽の蓋に伸びた。まるで自分の手ではないようだった。
プラスチックで出来た浴槽の蓋を取り払うと、そこには今にも溢れんばかりに満たされたお湯がはられていた。
「まさかな」
俺は浴槽からは目を離し、お湯になったシャワーを頭から浴びた。
ところで、実は俺は都市伝説が好きではない。正確には「何々をすると何々がでる」といった類いの話が好きではないのだ。
こっくりさんや1人隠れんぼなど、よく耳にするが、それらを試そうとする奴の神経がわからない。
百害あって一利ないだろうに。
しかしこの日の俺は浮かれていた。
10年来の片想いの相手に再会し、なおかつ悪くない雰囲気だったのだから。
心の中に、夏海に話すネタになるのではないか、という思いが芽吹く。
この時、あるはずのない"一利"が生まれてしまったのである。
この話を夏海にしたらどんな表情をするだろう。
気付けば俺はシャワーを止めて、浴槽を見つめていた。
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