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水面に映った自分と目が合う。やれ、とそう言われているような気がした。
夏海に教えてもらった呪文を思い出す。時計を見ると2時01分、時間はまだ大丈夫そうだ。
「未水様」
呟くと、水面がすこし揺れる。
早く、早く、と続きを促しているよう だ。
「未水様、未水様、おいでください」
意を決して唱えた途端、水面に波紋が広がった。固唾を飲む、嫌な感覚が背筋をかけ上がる。
しかし、それ以上は何も起きなかった。
「まあそんなもんか」
俺は少しだけがっかりした。何か起きた方が話のネタとしては面白いのに、残念だ。
と、そこである違和感を感じた。
なんだろう、と思って水面をじっと見つめる。
少しだけ波紋の余波が残っているのか波打つ水面、そこに映るのは自分の姿。
そして気付いた、違和感の正体に。
「あっ……」
水面に映った俺はずっと笑っていたのだ。
とっさに後ずさるが、水面の影はピクリとも動かない。あそこに映っているのは俺じゃない、頭にそんな考えが浮かぶ。
もう一度浴槽に近づいて水面の影と目をあわせる。
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