午前2時の浴槽

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この夏、俺は3年ぶりに生まれ育った町に帰ってきた。父親の転勤の影響で中学時代は東京で過ごしていたからだ。 電車を降りると関西独特のガヤついた賑わいが俺を包み込む。東京の冷たい騒音とはまた違った温かい騒がしさが懐かしい。 「あれ?そこにおるんはもしかしてヒロやん?」 聞き覚えのある声に振り向くと、幼馴染みの夏海が立っていた。 「おお!夏海か、久しぶりだな」 「やっぱヒロやんやー!懐かしいわー」 小学校の頃親友だった少女は3年の時を経て女性に変わっていて、不意に向けられた笑顔に少しドキッとした。 と同時に彼女しか使わない"ヒロやん"という愛称を変わらずに呼んでくれたことが少し嬉しかった。 「ヒロやんいつ帰ってきたん?」 「こっちに着いたのは昨日、今日はおん婆に挨拶に行こうと思ってさ」 おん婆は俺の祖母の妹に当たる人だ。早くに母親を亡くした俺は、父親が転勤で大阪を離れる間おん婆の元に預けられていた。 俺が中学にあがるまでは、コロコロ環境を変えることを良しとしなかった父親が、おん婆に頼み込んだようだった。
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