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「……あ、そうや知っとる?」
気まずい空気を断つために、なにか話題を作ろうとしたのか、夏海が口を開いた。
「なにを?」
「午前2時の浴槽って話なんやけど……」
「初めて聞く話だな」
俺が聞いたことのない話だと分かると、夏海は目に見えて元気になった。
「大阪で最近はやっとる都市伝説なんやけどな」
そう前置きして夏海は語り始めた。
「午前2時から3分間、満タンに水を張った浴槽に呪文を唱えると出るねんて」
「出るってなにが?」
「未水様」
「ミミズ様?」
「ちゃうちゃう、虫のミミズやのうて未来の水って書いて未水様や」
なるほど。俺は頭の中のニョロニョロのイメージを振り払った。
「呪文ってのは?」
「水面に映る自分に向かって、"未水様、未水様おいでください"って言うんや」
「へえー、でもそもそも未水様ってのは何なの?」
「ふふふ、それがな聞いて驚くなかれ、未水様は未来の自分って言われとるんよ!」
だから未来の水と書くのか、と俺は一人で納得する。
「じゃああれか?もしかして未来の自分の事とか聞けるの?」
「んーそれはやってみんと分からんな、ははは」
思いの外真剣になった俺が可笑しかったらしく、夏海は腹を抱えて笑いだした。
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