午前2時の浴槽

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娘がこういう年頃になると家族としては気になるものなのかなー、と俺が考えていると、夏海が少し怒ったように話し出した。 「この前なんかな、見合い話持ってきてんで!彼氏とかいたことないからって。ウチまだ16やで、ホンマ信じられる!?」 「え、いや待って」 それは確かに凄い話だが、それよりも聞き捨てならない一文が含まれていた気がする。 「彼氏とかいたことないの?」 「……うん」 「そっかぁ」 言いながら少し口角が上がっている自覚はあった。 「なんや、ヒロやんまでウチのことバカにするん!?」 「え、いやそうじゃないよ!」 「もう知らん、帰る」 夏海は可愛らしく頬をプクリと膨らませて、わざとらしく怒っていますアピールをする。 そしてそのまま回れ右をして歩き出してしまった。 「あ、夏海!」 言った後、初めてこっちにきてから名前で呼んだ事に気付いた。 夏海が立ち止まる。 「また今度」 夏海が振り返って全力の笑顔を向ける。それだけで俺は十分すぎるほどの幸福感に満たされた。 「うん、また今度」 また会える。これだけの事が不思議と胸を跳ね上がらせた。 この日の帰り道はすこぶる機嫌が良かった。
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