逃げてきた男

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それなのに父ときたら、常に先回りして私の外堀を埋めてしまう。 裁判官との食事中に交わした会話で唯一覚えていることは「大学というところは自分からアクションを起こさないと何も得られないところだよ。」という言葉だった。そして私に判事ホームズ物語という書籍をプレゼントしてくれた。 がしかし、私はそれ以来、この本を開いたことが一度もない。そんなことより、どこか誰も居ない空気のきれいなところへ行ってゆっくり休みたかった。 大学時代 入学式には、同じ高校のクラスメートと学生服に角帽を被って出かけた。 そのクラスメートは中学時代はサッカー部、高校時代は山岳部に所属しており、文字通り文武両道の男だったが、私は見栄を張って中学時代、サッカーをやっていたとその友達に嘘をついてしまった。その友達が、山のサークルに入ると言うので、またしても主体性のない私は、その友達の入るサークルに入部してしまったのである。 一方、語学のクラスでは、新人歓迎コンパが大学近くの居酒屋で行われ、参加した。 また、入学した大学のOBである裁判官、検事、弁護士の講演会にも高校のクラスメートらと参加したりと、入学したての頃はまずは順調な滑り出しであったと思う。 様子がおかしくなってきたのは、友達に誘われるまま入った山のサークルの新歓合宿のときである。 たしか、山梨県の山に1泊2日でいったときだったと記憶している。 山頂に着き、その夜はテントを張って、野営した。大人数の山行だったからテントもたくさん張られていたと思う。 その中の1つのテントに当然私も居た。3年生、2年生の先輩と私を含めて3人の新入生の計6人位で泊まったと思う。先輩たちの会話は私にとってとても大人びて見えた。お気に入りのウイスキーを持参して、呑んでいる先輩も居た。 先輩たちの新入生に対する印象がその場で語られたと思う。 私に対する印象は「お前、知的にみえるなあ」とか「むっつりスケベ」とかいうものだったと思う。 別にどうということはなかった。
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