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「冬依、転ぶなよ」
こんな時でも末弟の心配を忘れない春一に声をかけられて、冬依は階段途中で振り返るとニコーッと笑った。
それこそ天使が舞い降りたような可愛らしい笑顔で、周囲は一斉にホウッとため息をつく。
「鈴ちゃん、僕と一緒に乗ろう」
手を差し伸べられて、鈴音はついその手を握ってしまう。
そのまま階段を引っ張り上げられて、春一ひとりがその場に置いていかれ、弟の早業にちょっと唖然。
夏樹はすでに秋哉と一緒にコースターの先頭に座っていて、
「おい秋、ちょこれシートベルト腰だけなのか? 上からガードが降りてくるとかねーのか」
顔を青くしながら秋哉に突っかかっていた。
意外なことに、夏樹はジェットコースターがあまり得意ではないらしい。
悲鳴をあげたりはしないが、妙におちつきがない。
だからアクセサリーをいっぱい付けて、ジェットコースターに乗れない理由にしようとしたんじゃないかと思ったら、夏樹の派手な格好にポンと納得がいった。
デートでもないのに、今日の夏樹のスタイルはえらく気合が入っているなあと、鈴音は呑気に感心していたのだ。
それにしても、いつも余裕で怖いものなしの夏樹にしては、意外な一面だ。
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