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鈴音が前に座った秋哉と夏樹のやり取りを興味深く見ていると、
「ほら鈴ちゃん、横のシートベルトこっちに寄越して」
隣に座った冬依に促された。
「え、ベルトってどれ?」
慌ててうつむくがよくわからない。
「そっちだよ鈴ちゃん」
冬依がぐっと身を乗り出してきて、コースターの外側にある鈴音のベルトの位置を教えてくれる。
とたん、
「ゴホン」
不自然な咳払いが後ろの座席から聞こえて、
「?」
鈴音が振り返れば、
「春さん、そこに座ってたんですか」
春一が二人がけの座席にひとりきりで座っていた。
5人なので、誰かがあぶれるのはわかっていたが、春一がひとりで腕を組んでムスッとした顔で座っている。
それから、
「冬依」
低い声で、冬依の名を呼んだ。
冬依は呼ばれてやっと春一に気づいたようで、振り返るとふふっと可愛らしく笑う。
そして、
「鈴ちゃん、ほらそっちのベルト寄越して」
鈴音の腰にギュッとしがみつくように腕を回して、反対側のシートベルトを引き出した。
「……冬―依ぃ」
春一が唸るような声を出すが、構う様子もなく自分たちの間にある固定具にカチンと音を立てて固定する。
「これで大丈夫だよ鈴ちゃん」
ニコリと笑いかけてくる冬依は、本当に天使だ。
「うん、ありがと」
だからなんで春一が不機嫌な声を出すのか、鈴音にはいまいち良くわからない。
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