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「おっかしーナツキ、変な顔―っ」
『レッドドラゴン』から降りた場所にはカウンターがあって、コースター乗車中の写真が販売されていた。
先頭に座った秋哉は満面の笑みで両腕を高くあげている。
冬依はちゃっかりカメラ目線でピースサイン。
夏樹はといえば、前の安全バーにしっかり捕まって見事な真顔だった。
多分、写真で醜態を残すわけにはいかないと考えたのだろうが、みんな笑っている中での真顔は妙に浮いている。
まあ相変わらずのイケメンではあるが。
鈴音は残念なことに大口あけて何やら叫んでいた。
顔はもうどうしようもないが、それより風に煽られて覗く鈴音の二の腕の方が問題で、めっちゃ『太く』見える。
「うっわーっ」
鈴音は思わず目を覆うほど落ち込んでしまった。
隣に座ったのが華奢で色白な冬依だったから、それはもう残念なくらい太ましい(太い+たくましいの造語)鈴音の二の腕が、ばっちりと写真にうつっていたのだ。
「……ちょっとアレは」
事実を認めるのは、けっこう辛い。
そして春一は、
「すっげー、仏壇みてー」
「秋兄、それを言うなら大仏」
するどく冬依の突っ込みが入るが、秋哉が言いたかったように、ものすごい仏頂面をしている。
なんだろう、まるで政治ニュースでも見ているような難しい顔だ。
「春さん、もしかしてこういう場所キライ?」
鈴音が見上げて聞けば、
「いいや、どんな顔してるかなんて、自分じゃわからないだろ」
春一はいつもの穏やかな笑顔で鈴音に言うし、まあ自分も予期しない二の腕ショックがあったので、そそくさとその場を離れることにする。
夏樹だけが、
『まあ春のノーマルな顔はあんなだよな』
と、春一の普段の表情はアレだということを再認識している。
春一が一番素顔をみせるのは自分なのだと自負して、ふふんと自慢げに鼻を鳴らしていた。
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