3 お化け屋敷

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「なに見てんだ?」 背後からいきなり夏樹が話しかけてくる。 それはいいのだが、頭を夏樹の肘かけにされて、鈴音の腰がグンと落ちる。 お化け屋敷の中でもだったが、 「夏樹ってば重いのよ」 鈴音は上を向いて文句を言った。 だけど夏樹は面白がって、グイグイと鈴音の頭を押してくる。 まるで地面にめり込んでしまえと言わんばかりだ。 「もう! これ以上背が縮んじゃったら、どうしてくれんのよ」 末っ子の冬依にまで身長が抜かれて、今は鈴音が一番チビになってしまった。 来生家は長身の家系らしいので、このままだと鈴音にとっては巨人の王国になってしまう。 でも夏樹は、 「いいんじゃね」 と意地悪に笑う。 「体重は負けてねーんだし」 いやいやいや。 さっき太ましい二の腕に落ち込んだばかりの鈴音には、ちょっと胸に突き刺さる言葉だ。 だから言い返す言葉もなく、ぷるぷると震えていると、 「こーゆー触り方しか、俺には出来ねーんだしさ」 夏樹がふと言った。 「え?」 「だから、もっと縮め」 ぐいぐいと上から押してくる。 「もうヤめてってば!」 夏樹にはかない抵抗をしながら、 「春さんは?」 と聞くと、 「秋と冬依を待ってる」 教えてくれた。 鈴音たちは駆け抜けるようにお化け屋敷を出てきてしまったが、秋哉と冬依はたっぷり堪能しているようだ。 そして心配性の春一は、そんなふたりのことを迎えに行ったらしい。 夏樹も鈴音が目を付けていたワゴンを見つけて顎を傾けて先を示す。 「あいつらが出てくるまでに、かき氷買っといてやろーぜ」 やっぱり夏樹も優しいのだ。 そして弟たちに、すごく甘い。 「うん」 鈴音はこういう4兄弟を見ているのが大好きなのだ。
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