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「何が思い過ごしだって、鈴音?」
いつの間にやら夏樹もこちらを向いていた。
真剣な顔をして、トレードマークの口元の笑みも消してしまっている。
「え、夏樹まで聞くの? 大丈夫だよ、きっと私の考えすぎだから」
体の前で両手を振ったが、
「鈴音」
春一に静かな声でいさめられる。
「俺たちは家族だろう。間違ったっていい。気になることはちゃんと話せ」
こういう時の春一は、きっちりと厳しい家長の顔になる。
鈴音は、
「……はい」
小さくうなずいて、さっきから気にかかっている兄妹のことを話した。
青いTシャツ、茶色い短パン姿の小学校低学年ぐらいの女の子。
鈴音は、その色合いの洋服から、ずっと男の子だと思い込んでいた。
「だけど帽子が外れて、その下から長い髪が見えたんです。実は女の子ってわかって驚いて。
でも、ただボーイッシュな格好が好きな子かなっとも思えるし。でもその子、帽子をかぶるのを嫌がってるように見えて」
さっき園内放送されていた、迷子の女の子の服装と合致する。
ただ帽子だけが違うが、このアイランドパークのキャラクターのキャップだ。
どこの売店でも買える。
そして、帽子が風にあおられた後、かぶせ直されるのを、女の子は首を振って嫌がっていた。
長い髪を帽子の中にしまわれるのを嫌ったのだと思うが、よく考えれば、そんなことをする必要はどこにもない。
女の子の特徴を隠すため、ツインテールの髪を解き、そして帽子をかぶせて長い髪を隠したと考えれば、すべて合点はいく。
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