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一方、オープンテラスに残った春一は、秋哉と冬依に、これまでの経緯を説明した。
「いまのうちに食っとけよ」
と言われ、秋哉と冬依は再び箸を動かすことを始めていたが、それでも耳は春一に向けている。
「というわけで、鈴音が見た女の子が迷子の女の子だという確証はもてない。だから俺は総合案内所まで行って、保護者の話を聞いてくるつもりだ。
だけど案内所は正面ゲートの側、ここからかなり距離もある。お前たちはなるべく夏樹や鈴音の近くにいて、不測の事態に対処してもらいたい」
秋哉と冬依はそれぞれスマホを出してうなずく。
「ラインつなげとく。オレたちなら、どんだけスマホに夢中になってても違和感ないだろ」
ニッと笑う秋哉は、実はSNS系が一番ニガテだ。
直接顔を見て話す方が性に合うタイプ。
「音は切れよ」
春一に注意されて、慌てて設定を変えた。
「夏樹に位置情報はマメに知らせるように送っとけ」
そして春一も走り出す。
このアイランドパーク内は広い。
絶叫マシンを無秩序に建て増ししたお陰で、敷地はまるで迷路のように広げられていった。
園内地図を秋哉たちに残したので、春一は記憶を頼りにメインゲート方向に向かって走る。
ざっと計算しても5分は必要だろう。
戻ってきてもう5分。
その10分の間に最悪の事態にならなければいいと願う。
そのためには一刻も早く、女の子の所在を明らかにする必要がある。
だから本来なら、対象を知っている鈴音と夏樹をふたてにわけ、それぞれに秋哉や冬依を組ませた方が効率が良いのはわかっていた。
けれど弟たちの中で、春一が安心して鈴音を任せられるのは夏樹だけなのだ。
普段どれだけ憎まれ口を叩こうとも、鈴音を挟んで油断できない相手であっても、やはりこういう時は誰よりも頼りになる。
春一は夏樹に、一番の信頼を寄せている。
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