179人が本棚に入れています
本棚に追加
『夏樹の判断に任せる』
と春一の下知を受け、夏樹は鈴音の頭越しに女の子と男の様子を探る。
ふたりは出入り口の東ゲートから、数歩のところにあるガーデンチェアに座っていた。
ここは芝生広場なので身を隠せるような場所はどこにもない。
だけど一番近くのジェットコースターの横まで戻れば、対象からは距離が開きすぎる。
ゲートを出て行かれてしまえば、車に乗られて見失う可能性が高い。
だから夏樹は、
「鈴音、いま俺たちはデート中だからな」
芝生に足を踏み入れる前、鈴音の頭に小声で言った。
「えっ?」
驚く鈴音に、
「バカ、こっち見んじゃねぇ。カップル偽装が一番怪しまれねぇんだよ。自然に動け、自然に」
対象から適度な距離を保って、同じようにガーデンチェアに座る。
夏樹が対象の方を向いて、鈴音には背中を向けさせた。
「鈴音は俺の壁だ」
そう言って鈴音の写真を撮る想定で、女の子の姿をズームしてシャッターをきったのだが、
本当は怪しい男の視界に、わずかでも鈴音を見せることがイヤだった。
鈴音を危険に巻き込む可能性など、砂粒ほどもあってはならない。
それこそ鈴音を任せてくれた春一を裏切ることになる。
「ぜってー振り返るなよ」
夏樹に言われて、鈴音も固い表情でうなずく。
でも夏樹がしている心配を、鈴音はこれっぽっちも自覚していない。
最初のコメントを投稿しよう!