最終章

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「あの時とはいろいろ状況も違っていますから、あまり気にしないでください」 「えっと、どういう意味ですか?」 「あの時、私は、あなたが『美結さん』だと思い込んでいるのを知ってて言ったんですけど、いや、だから言えたのか……」 「篠田さん」 「まあ、言うつもりはなかったということです」 ちょうどそこで、他の患者さんが屋上に出てきたので、私達は少し言葉のない時間を過ごした。 その患者さんが、向こうの方に行くまで待っていたが、その人は一番向こうのベンチに座った。 多分、声は届かない。 「篠田さんの言ってることがわからないんですけど」 私は先に口を開いた。 彼は、私をちらっと見たけど、あまり表情は変えなかった。 「篠田さん」 私は彼に少し近付いた。 彼は言葉を選んでいるようだったが、私に詰め寄られる感じに負けたようにため息をついた。
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