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「そうか……その事故でお姉さんと記憶が……」
勉さんは、悟に話した時と同じような表情だった。
「はい」
「それは大変だったな……」
帽子を脱ぐと白髪混じりで坊主頭の彼は、頭をかきながら悟と私を交互に見た。
「それで、まだ何も思い出してないのか?」
「勉さん」
悟が少し注意するように言った。
「あ、すまんすまん。そういうのは焦っちゃいかんな」
彼はさらに頭をかいていた。
「勉さん、それも」
「ああ!ああ……」
彼は苦笑しながら頭をかくのをやめた。
なんとなく、勉さんがどういう人かわかった。
「まあ、そういう事情なのに……、また会えて良かったな」
勉さんが優しい表情で悟に言った。
「ああ……」
彼はそれだけ言葉にすると、そのことを実感しているように頷いた。
私は、口元に、笑みを浮かべた。
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