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腕で口の周りを拭いながら鈴音の間から身を起こしたが、鈴音は足を閉じようともしなかった。
というより、閉じられないようだ。
もう全部終わってしまったかのように力の入らない様子で、ベッドの海に身を沈めている。
横を向いた頬を赤く上気させて荒い呼吸だけを繰り返している。
「鈴音」
こちらを向かせて名前を呼んでやれば、
「あっ」
怯えた目をして春一を見た。
そんな顔は許さないと、強引にくちづけてやる。
眼の淵から溜まった涙がこめかみを伝って行った。
鈴音を泣かせるまいと誓ったけれど、こんな涙なら許してもらえるのだろうか。
でも念のためと、鈴音に、
「鈴音、辛くない?」
聞いてみると、鈴音は顎を動かそうとして春一に掴まれているため動かせず、ただ瞳のまたたきだけ返事をする。
鈴音の瞼が上下するたびに、眼の中の涙の雫が溢れた。
「鈴音、可愛いよ」
春一は涙を舌ですくい取ってやりながら、顎に添えた指にほんの少しの力を加えた。
たったそれだけで、鈴音の唇はぽっかりと開いてしまう。
本当に、鈴音の体はいまや春一の思いのままだ。
指一本抵抗することも敵わない。
「可愛い」
「……」
「大好きだ」
繰り返し囁いてやれば、眼の中に見えていた剣が取れた。
そんな鈴音の素直さが、
「――可愛い鈴音」
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