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報われない生命はいくらでも有る。
むしろ、喜び一つ得られず消えていく生命の方が多いのは、生命全ての営みを考えれば必然。生命が生命を取り込み循環する。そこに意義など無い。
自分は間違った事をしようとしているのだろうか。
「かみしゃま? どうしたの? おなかいたいの?」
「……大丈夫だ……幼き人の子よ……そなたは、何を望む?」
「え?」
この少女は、私を神様だと呼んでいた。キラキラと輝き、綺麗だから、と。
『神』というものは何なのか、この幼き人の子の思考から察するに、優しい何か、らしい。
そんな呼ばれ方をするのも、ましてやこうやって意思の疎通を図るのも初めての私が神というものなのかどうかは解らない。
この子の望みを叶えてあげたい。何故か、そう思った。
考えてみれば、己がこれまで生命や事物に関わった覚えが無い。自分が何かを考え、思う事すら初めてな気がする。ずっと、この場に居て、見える場所を、ずっと眺めていた気がする。
この子が私を神だと思うのであれば、それ以上の意味はお互いにとって今の所ないだろう。
私は何なのか。瑣末なことだ。この子の願いを適える存在。それ以外にすべき事もしたい事も無い。
「そなたは、幼くして死んだ」
「え? クミちゃんが? しんだの?」
「……そう、クミちゃんが、だ。……クミちゃんが次の命になる。私がクミちゃんの希望を聞こう」
「ママは?」
「……見てみよう」
気にもして無かった事を聞かれた。この子の母親を見た。
この子の母親は、同種の雄と話をしていた。
『保険金ってのはいつ入るんだ?』
『あー、さぁ? 一ヶ月くらいじゃない? あぁ、清々したぁ……うざかったんだよね、あいつ』
人の世の事は解らない。しかし、何故か解らないが、気に入らなかった。
「……元気そうだ」
雄と生殖活動を行う程度には生命に溢れているようだ。
「シクシクってしてない?」
「……笑ってるな」
「しょかしょか。よかったねぇ……ねぇ? かみしゃまってきれいね?」
己の姿を映す物など無い。ただ、この子には綺麗に見えているらしい。それは、悪い気分ではなかった。
「そうか。次の命について、希望はあるか?」
「え? わかんない。かみしゃまむつかちいねぇ?」
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