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◇
ある時、博士は重大な発見をした。
それはコンピューターに感情をもたせることであった。
長年苦しんだ甲斐があった。
人工知能のめどがたったのだ。
博士は喜んだ。
これで研究漬けの日々からも解放されるだろうと思った。
しかし世の中には色んな人がいるもので、
「博士、この研究の成果をぜひ、我が軍で有益に使いましょう。コンピューター上に感情を再現できるなら、それを使って、効果的な尋問方法のシュミレーションができるはずです」
と、博士に持ちかけてくる男がいた。
博士は悩んだ。
私の研究成果を軍事利用してよいものかと。
ただし男は、
「これは軍事利用ではありませんよ。むしろ、その逆の性格を帯びています。だって博士、情報提供者から今よりももっと効果的に情報を引き出せるならば、きっと戦争は回避できるはずです。考えても見てください。人の心理を理解するということは、あらそいを回避する手段になるではありませんか」
と、まくしたてた。
彼の言い分も一理ある。
人間の深層心理が解明されるならば、争いの種も芽吹く前に、不活性化できるだろう。
なにより人類の役立つのなら、これは良い事じゃないか。
博士はそう思って、軍部の高官の男と握手を交わした。
そこには、このまま深層心理の解明が進めば『どもり』の解決方法も見つかるかもしれない、との期待もあった。
その日から博士は、更なる人工知能の発展に、全力を向けたのである。
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