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◇
数年後。
博士はコンピューター上に、より高度な人格を形成することに成功した。
苦労の甲斐あって、今やそのコンピューターは、小学校三年生程度の知能を有するまでになっている。
人間の深層心理をすべて再現するには、まだ知能の面で不足するところもあるが、これも成長とともに徐々に高まってゆくだろう。
元々がコンピューターなので、計算は大の得意であり、物覚えが良い。
加えて、今やモニター上に詩を書いてみせたり、インターネット上にあまたある音楽データを独自に編集して、作曲ができるようになった。
博士の開発したコンピューターは、とても人間らしい知識欲をもっていたのである。
これらの人工知能をコンピューターに移植する課程で、博士は自らの生い立ちをコンピューター側に入力した。
それは人格形成の核となるものだ。
人格の核となるものをあらかじめ用意し、そこへ情報を蓄積させて、雪だるま方式に人格の成長を促す。
のちに、その情報をどう利用するのか自ら選択させるよう仕向けたプログラムを追加して、更なる発展を目指す。
これが博士の考えた人工の、人格形成における理念であった。
「ついに完成しましたか」
軍部の高官の男は言った。
彼は胸に幾つも徽章を付けていた。
初めて会ったときよりも、徽章の数が増えているように思える。
出世したのだろうか。
「と、とりあえず人格の、け、形成には成功しました」
博士はどもりながらも、なんとか伝えようとした。
「ああ……そうでした。博士は会話が苦手でしたね。どうです? ここは一つ筆談にしようじゃありませんか」
これはありがたい。
博士はキーボードを用いて、男と筆談する手はずを整えた。
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