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◇
研究の成果は次の通りである。
一、我々はコンピューター内に自我を形成することに成功した。
二、現在コンピューターの知能は小学校三年程度と思われる。
三、コンピューターも人間と同様に知能の獲得にはある程度の時間を有する、と見える。
四、感情の存在も確認され、現在、心理学に精通する者が研究に加わって、各種様々な感情に対する反応を見ている。
五、我々同様に言葉を解す。しかし、技術的に人工の発声をもたせる事が困難で、今のところ、コンピューターとの意志疎通には文字を用いる必要がある。
「これは素晴らしい」
男は拍手した。
「いずれこのコンピューターが成長すれば、詳細な人格の解明にも役立つでしょう。なにしろ、感情がデータ化されて残るのです。感情の数値化も夢ではありませんよ。さらに、生きた人間では実現できなかったアプローチも、このコンピューターでなら試すことができるでしょう。それつまり、人間はコンピューター上に人間の心を作り出し、その人間に似せた心を分析する事で、我々は人間の、本当の心の構造解明をなそうとしているのです。本当に素晴らしいですよ、博士、これは本当に素晴らしい」
◇
それから博士は一段と研究に励み、コンピューターは徐々に見識を高めていった。
軍部の男の要望にも、ある程度応えられるようになった。
人工の声帯を実現するのには骨が折れたが、技術者の努力もあって、なんとか声を再現できた。
今日は人格を持ったコンピューターの初披露の日である。
この日まで技官や研究員には徹夜を繰り返してもらった。
声帯の調整が記者会見直前まで難航していたものの、それもどうやらめどが付いたらしい。
さあ、ここからが本番だ。
博士の長年の研究の成果を今ここに披露しようではないか!
※※※
「わ、わたしは、じ、自我をもった、こ、コンピューター、で、です」
会見場がざわついた。
いったいどうしたというのか。
驚くべきことに、このコンピューターは『どもり』であったのだ。
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