博士の研究成果

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  ◇  軍部の男は怒っていた。 「これは一体どういうことです? 部下に命じて急遽、会見を中止させたんですよ。説明してください、博士!」  博士は言葉に窮してしまった。 もともと『どもり』がひどい上に、男に怒鳴られたのでは、声なんて出るはずもなかった。  腹の収まらない男は、控え室で暴れている。 ロッカーを蹴飛ばしたり、花瓶を投げ割ったり、博士の部下の技官に怒鳴り散らしたりした。 そして、ついに男は、 「ちくしょう。なんて様だ。補助金は即刻打ち切りだ」  と、激高しながら、会見場をあとにした。   ◇  博士は貧乏になってしまった。 地位も失った。 学会から追放されて、皆に白い目を向けられるようになった。 博士は、人気のない森閑とした山荘に身を隠すよりほかなかった。  しかし、すべてを失ってしまったかに見えた博士であるが、実は彼は、かけがえのない大きなものを得ていたのである。 「ようこそ、我が館へ」  博士の声はどもっていなかった。 「お招きいただいて光栄です、博士」  返事をしたのは、あの自我を持ったコンピューターである。  博士の人格を核として成長したコンピューターは、やはり『どもり』であった。 しかしながら、博士もコンピューターも、自分自身と話しているときは、不思議とどもらなかった。  この珍妙な二人は、博士の人格を核にしてできている。 二人の会話のことごとくは、お互いに独り言の延長として認識され、『どもり』がでないのである。  博士の心の平和は、こうしてもたらされた。 くしくも、博士らは、お互いに初めて友達を得たのである。 人の感情は、理解できずじまいであるのに……。(了)
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