博士の研究成果

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博士の研究成果

 博士は孤独だった。  毎日毎日、研究所にこもって、いつ報われるともわからない、先のない研究をしていた。  博士は人工知能の研究をしている。 しかし、今のところかんばしい成果は挙がっていなかった。 「私は研究漬けの毎日で、青春を駄目にしてしまった」  博士はマグカップを片手に、窓の外を見ながら、ひとり呟いた。 研究所の外は雨が降っていた。   ◇  博士は人見知りだ。 しかも、ひどい『どもり』がある。 ただし、ひとりで部屋に居る時はどもらない。 たまに独り言をつくが、その際どもったことはなかった。 けれども、他人を目の前にすると、どうしてか、どもってしまうのだ。  これだもの、博士には親友がいなかった。 ひどいどもりで会話ができないからである。 当然、恋人もいない。 博士は独り、研究に生きるしかなかった。  しかし、どもりを除けば、博士は天才である。 若くして、その道の名誉ある賞を幾つも獲得した。 受賞後のスピーチは、どもりのために冴えなかったけれども、彼の生み出した功績は大きく、彼の名は瞬く間に世界に轟いた。  そうして博士は富を得た。 今、研究に必要な経費のすべては、国が出資している。 将来ある有望な人間と見なされている博士だ。 彼に投資することは国家として当然の事であった。
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