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「なるほど。家長様なら、降格を沙汰してもおかしくなかったのよね。良かったねえシノ」
モエは一先ず喜びを分かち合うと「ところで」と、話題を変えた。
「雑用担当になったということは、早番はなくなったということよね」
モエも一昔前は調理場で働いていた。
答えを聞くための問いと言うより、うんと言わせるために選んだ言葉だと思われる。
「なくなった訳じゃないよ。人手が足りないときは出なきゃいけないもん」
「それは人手が足りないときでしょ。ないよね? 早起きしなくていいよね?」
「え、う、うん……」
シノは紙筆が置かれた文机を一瞥した。
モエは文をしたためていたらしいが、いささか気になるのは、文が十枚以上にも及ぶこと。しかのみならず、モエが筆を手にしたところなどかつて見ぬ、ということである。
「お願い。手伝って」
モエはシノの手を力強く握った。
シノは、やはりと思った。
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