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「何を手伝えばいいの?」
「明日までに書かなきゃいけないのよ」
モエ曰く、女長の蓮吾に文の代筆を頼まれたのだと言う。
「でも、私はあまり字を知らないし、文なんて書いたことないよ」
シノはモエがしたためた文の幾つかに目を通した。
読める字が少ないため内容は判じかねるが、どれを見ても同じ文句であることくらいは判る。
「同じのばかり……。こんなに沢山、女長は誰に渡すのかなあ?」
シノが呟くと、硯で墨を擦っていたモエが手を止めた。
「それ、女長の代筆じゃなくて上級女の代筆よ」
「え、上級女? じゃあ何故、女長が?」
「上級女はお客さまが沢山いるでしょ。一人で全ての文を書くのは難儀だから女長に頼んだのよ。これしきのこと、見世娘も娼妓もみんなしてるわよ」
「へえ、そうだったんだ。でも、お客さまに送る文が全て同じ内容なのって、お客さまは怒らないのかなあ」
「知らぬが仏、知るが煩悩」
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