121人が本棚に入れています
本棚に追加
モエは淡々と言い放つと「手伝ってくれるでしょ?」と、声に力を込めた。
「しょうがないなあ」
困っている人を放っておけないのが、シノの性(さが)である。
シノはモエにならい、手本の文に白紙を乗せて、透けて見える字をなぞった。
筆に慣れておらぬ故、思いのほか時を費やした。
二人がかりで必要枚数の三十枚を仕上げたのは、明け方である。
その日は仕事中にあくびばかり出たが、今宵はよく眠れると思えば気力で一日を乗りきることが出来た。
しかしである。
「え……、今日も頼まれたの?」
シノは部屋に戻るなり、どっと疲れが増した気分になった。
またしてもモエは、女長から代筆を押しつけられていたのだ。
「今日は手伝わなくていいよ。シノは休んで」
モエの心遣いに甘えシノはひとまず横になったが、ろうそくの明かりが気になり眠れぬ。やはり手伝うことにした。
最初のコメントを投稿しよう!