第22話

6/38
前へ
/38ページ
次へ
モエは淡々と言い放つと「手伝ってくれるでしょ?」と、声に力を込めた。 「しょうがないなあ」 困っている人を放っておけないのが、シノの性(さが)である。 シノはモエにならい、手本の文に白紙を乗せて、透けて見える字をなぞった。 筆に慣れておらぬ故、思いのほか時を費やした。 二人がかりで必要枚数の三十枚を仕上げたのは、明け方である。 その日は仕事中にあくびばかり出たが、今宵はよく眠れると思えば気力で一日を乗りきることが出来た。 しかしである。 「え……、今日も頼まれたの?」 シノは部屋に戻るなり、どっと疲れが増した気分になった。 またしてもモエは、女長から代筆を押しつけられていたのだ。 「今日は手伝わなくていいよ。シノは休んで」 モエの心遣いに甘えシノはひとまず横になったが、ろうそくの明かりが気になり眠れぬ。やはり手伝うことにした。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

121人が本棚に入れています
本棚に追加