121人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ、シノ。ここへ戻ってくるとき、女長の部屋を見た?」
モエは文字をなぞる手を止めずに呟いた。
「うん」
シノも手を止めずに答えた。
障子の外から、虫の鳴き声が聞こえてくる。
「部屋の明かりが消えてたでしょう」
「うん」
「寝てるってことだよね」
「そう思う……」
「寝ずに代筆してるのは私たちなのに、上級女は女長が書いてると思ってるのよ」
「うん……」
大方そうであろうと、シノは思っていた。
おそらく女長は、誰が代筆したのかと訊ねられれば真実を答える。しかし訊ねられなければ、モエに代筆させたとわざわざ話さない。
「華蘭(からん)様が女長に銀子を渡していたところを見たのよ。代筆のお礼ですって。本当なら、その銀子は私とシノが貰うべきだと思わない?」
モエは静かな声に怒りを込めた。
最初のコメントを投稿しよう!