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あれから、長い長い時が流れた。 今、改めて思い出してみても。 鉄のような味と。 腐敗した匂い。 コンクリートボックスから感じる、ジワリジワリと迫る陰の空気。 とても、人の住むようなところじゃない。 それは、僕にも言えることだった。 お父さんがお父さんじゃないことを知ったのも、逃げた後のことだった。 一つ言えることは、あの数年間暮らした陰の空気のおかげで。 僕は一つ、特技ができた。 血の匂いや気配を感じることで、何か起きる前に知らせること。 きっと、あの女の人もそうだったんだと思う。 だから、僕に飲み物を渡した。 イヤなはずの匂いを側に感じることで、あの時の生活を無駄に感じたくなかったし。 何より、お父さんは優しかった。 不思議な生活から生み出された僕は、他の人では理解できないような生活をしているかもしれない。 それでも僕は、感謝している。 真っ赤な腐敗の中から生まれていく愛情を。 今は胸を張って。 END
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