恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす

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「恋蛍にきて、 三年か?」 仲倉が刺身のつまを口に頬張り、 今度は視線を外すことなく聞いてきた。 「そうだな。 仲倉とも三年だな。 一緒に飲むようになったのは二年か」 「楽しいか?」 「ああ。 こっちの方言にはまだ慣れないけどな」 手を口元へ持っていって笑う。 どうも「おちん」だけは発音できない。 お菓子の意味なのは理解できるが、 慣れない分際ではいかがわしく感じてしまう。 「おちん、 か」 「いうなよ。 わかってるくせに」 仲倉の言葉に少し笑って、 またジョッキを持ち上げた。 しばらく沈黙が続いて、 そろそろお開きかと考えていると仲倉が訊いてきた。
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