恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす

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「なんで? すごく気に入ってるよ。 センスいいし、 こういうの好きだ」 「――そうか。 なら、 よかった」     ◆◆◆ 帰り道、 仲倉の家の前までタクシーで相乗りした。 理哉は恋蛍の店の敷地内に部屋を設けてあって、 仲倉も何度か泊まったことはあったがまだ少し距離がある。 「上がってくか?」 仲倉の家まで数メートル手前というところで、 いつもより低い声が聞こえた。 車窓を見ていた理哉はその声に仲倉を振り向いた。 「散らかってるから誰も上げないんじゃなかったっけ?」 恋蛍の店とそんなに離れていないのに、 仲倉の部屋には一度も泊まったことがない。 女が部屋にいたり、 同棲していたりと考えると、 突っ込んで聞くことも怖くて避けていた。
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