恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす

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    ◆◆◆ 東海道五十三次の宿場町として栄えた海沿いの城下町にある老舗和菓子本舗「恋蛍(こいぼたる)」には開店前から行列ができていた。 水野理哉(みずのさとや)は創業百五十年を誇る和菓子店「わ庵」の跡取り息子で恋蛍に修行にだされて三年になる。 朝の風物詩となった行列の整理券配布も堂に入ったものだ。 「(さと)くん、 俺りゃ貰っとらんぞ」 杖をついた森里のじいちゃんが理哉の革靴をつついてきて、武器かと内心苦笑する。
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