恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす

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「じゃあ。 ……いただいていこうかな」 結局、 仲倉の家の前でタクシーを降りて、 ふたりで部屋へと入っていった。 「上と下どっち?」 「ええっと、 上?」 疑問形で答えたのは問われている意味が曖昧なせいだ。 仲倉が理哉(さとや)の部屋に泊まるときは確かにベッドか布団か確かめる。 端から同衾しようなどと考えないからだ。 けれど、 理哉の答えを聞くと、 仲倉はすぐにシャワーを浴びにいった。 ベッドをゆずってもらったのだろうと胡乱に考えただけで、 仲倉が出てくるまでテレビを見ていた。 散らかっているといっていたが、 男の一人暮らしなら洗濯物のひとつソファに放ってあるくらいなんてことない。 ぐるりと見渡してみても整理整頓されていて女と一緒に住んでいるようすもない。 リビングの明かりでぼんやりと見える寝室もどこもおかしくない。 しいていえば、 明かりで照らされた本棚にアダルトなものが並んでいるくらいだ。
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