恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす

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限定百個の「恋最中(こいもなか)」は丹波大納言小豆ををふんだんに使用した高級かつ繊細な和菓子だ。 こしあん仕立てになっていて、お茶請けに御贈答にと人気であるが 高級なわりに格安なため、数に限りがあるのが申し訳ない。 「森里さん、 さっき左のポケットに入れてましたよ」 「おー、 そうじゃった。 あった。 あったよ」 理哉が目線を合わせてからポケットを指先で突くと、 思い出したように手をいれて整理券を確かめていた。 「よかったです。 すみません、搬入があるので失礼しますね。 みなさん、気分が悪くなったら声かけてくださいね」 はーいと一斉に声が聞こえてきて、 どこかのデイサービスのようで微笑ましく感じていた。
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