恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす

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「おはよう。  手伝うよ」 トラックの荷台をのぞくと、 中から粉の袋を抱えた仲倉がでてくる。 「おう、  水野はそっちの運んでくれると助かる」 十キロの袋を四つも担いだ仲倉はどっしりと構えて易々と店の裏手に消えていった。 残ったのは大納言小豆が五キロ入った袋がひとつだ。 理哉が手伝うと毎朝うるさいせいか、 気持ちばかり残してくれているのだ。 (また子供扱いか) 仲倉が手を出させないのは理由がある。 理哉が無理をして砂糖の袋をアスファルトにぶちまけたせいだ。 あれ以来、 ひ弱扱いを受けている。 それでも理哉は男だし、 ひそかに仲倉に想いを寄せている。 まだ慣れない土地で一番優しくしてもらいすぐに惹かれたのはゲイの理哉にとったら自然なことだ。 しかも、 仲倉に抱かれたいのではなく、 抱きたいという根っからのタチ気質だ。 ハッテン場ならともかく、 由緒正しき城下町にゲイの集まる場所などそうそうない。 陰湿なマンションの一室でひっそりと身を隠している者がほとんどだ。 「わ庵」に帰るたびに顔を出す店はあるが、 仲倉にどっぷりハマッていて気持ちが動かないでいる。 理哉にとって仲倉が眩しすぎるせいだ。
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