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正良と彰は老婆の話を適当なところで切り上げると、後は適当に世間話をしながら、自分に仕事を教えてくれる先輩職員の元へと向かった。
「あはは、あなた達が新人職員さんですね。よろしくお願いします。私は、ええと、霧島叶と申します。そのふつつか者ですが、こんな私でも先輩なので、いざという時は頼っちゃってください」
「よ、よろしくお願いします」
先輩職員の霧島叶は、長い髪を後ろで一本に結んだ美人の女性だった。年齢的には、正良達よりも1つか2つぐらい上に見える。まだまだ、彼女も新人の域を出ていない感じで、何だかおどおどしていた。
「やべ、俺、あの人好きかも」
彰は正良の耳元でそんなことを言うと、急にやる気を出したようで、彼女の後を駆け足で付いて行った。
「全く、現金な奴」
正良は半ば呆れ気味に笑うと、さっきの老婆の話を思い出して、早速、叶に訊ねてみることにした。
「そう、山村さんがね。でも、あはははは、話半分で大丈夫ですよ。あの人、ここだけの話、認知症が結構進んじゃってて、その、記憶すらあやふやなんです。だから、その気にしないで下さいね。も、もちろん、無視はダメですよ。話を否定したりせず、最後まで聞いてあげて下さいね」
「ええ、分かりました」
先程の女性は山村さんというらしい。正良は何となく、その名前をメモ帳に素早く書き込むと、後は彼女に付いて、日頃の仕事の様子を観察していた。
今日のところは仕事内容を覚えなくても良いと、予め聞かされていたので、正良も彰も、純粋に仕事の様子や雰囲気などを知ることができた。特に、付いた先輩である、霧島叶は、介護職員の鏡のような人物で、利用者からの言葉を全て聞きつつ、さらに仕事もテキパキとしていた。周りのパート職員が世間話に興じていても、それに加わることなく、きちんと自分の仕事をこなしていた。
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