第1章

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 田中正良はどこにでもいるような現代の若者である。推薦で公立の4年制大学の文学部を卒業し、人並みに就活をして、それでも、この不景気では中々思ったところから内定は貰えず、最終的には、全く未知の分野であった福祉という道を選択することとなった。  正良は溜息交じりに、明日からの社会人生活を思い、暗澹たる気持ちでいた。こんなはずでは無かったとは言わない。それなりに努力して、今の自分がいるわけだから、就職先に不満があるわけでも無く、かと言って、自分を責める気にもなれなかった。しかし、それでも、どうして心がこうも重いのか、それは、研修の時の出来事に原因があった。  面接の時に会った、志高そうな福祉の専門家を志望する、正良が面接官だったとしても、間違いなく取るであろう人材のこと如くが、選考落ちしている中、会社のことも大して調べずに、適当に学生時代の出来事を誇張して伝えていた自分と、高校時代からの悪友である、藤堂彰が合格したのは、我ながら納得できなかった。これが事実ならば、面接官達の眼は正しく節穴となる。 「まあ、俺ぐらい肩の力が抜けていた方が良いのかな」  自分を励ます意味でも、独り言で弁解してみる。しかし、いくら自分に都合よく物事を曲解しても、やはり、矛盾は尽きない。自分は福祉系の大学を出たわけでもないし、別にこの業界を変えて行こうだなんて気概も無い。そして何より、この前の研修で、ようやく「ヘルパー2級」の資格を取得したばかりなのだ。あの面接に来ていた人達は、いずれも「社会福祉士」といった専門的資格を所持していることを面接で訴えていたし、事実、それらが最大のアピールポイントであることは、正良ですら周知していたので、半ば諦めかけていた。まあ、ここに落ちたら、来年頑張れば良いと、自分に言い訳していた部分もあったのだが、数日後に、内定証が届いた時、正良は何かのドッキリでは無いかと、ずっと疑っていた。もしかすると、今も疑っているのかも知れない。  次の日、正良と彰は職場である、ふれあいの庭「紫苑」で再開した。二人とも配属先は4階の右側フロアだった。経験も何も無い、今の二人にとっては、目に映るもの全てがネガティブに見えていた。
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