第5話

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頭は働かず、身体は動かず。 目の前のことが何処か遠い出来事のように映り、聞こえる声が意味のない音のように聞こえていた。 それが、 『君を倒して』 急に、マールの声がすっと耳に入ってきた。 (・・・私が斃(たお)される?) (それは、あってはならないことだわ。) 『すまない、姫。君ばかりに責任を押し付けてしまって・・・。』 国王の言葉がフラッシュバックする。 確かこれは、ヒメが初めて毒を飲み、高熱を発して倒れたときだ。 (いいえ、お父さま。私は最強の盾であることを誇りに思っているの。) 『ごめんなさい、姫。外に出たいでしょうに。』 これは王妃の言葉。 ヒメが10歳の誕生日を迎えたときだったか。 (お母さま、神殿が私を護るためにあるって、ちゃんと分かっているわ。) ヒメはセラフィールド王国の最強の盾にして、最大の弱点だ。 ヒメが斃れれば、国が倒れる。 神殿は、ヒメを隠すための箱庭なのである。 『姫さま、しっかり自覚を持ってくださらないと。』 これは、侍女が幼いヒメに言った言葉。 (私は、これ以上になく自覚しているわ。) だから、神殿を出たの。 (絶対に、セラフィールド国民は、私が護ってみせる。) ・・・私は屈したりしない。
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