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頭は働かず、身体は動かず。
目の前のことが何処か遠い出来事のように映り、聞こえる声が意味のない音のように聞こえていた。
それが、
『君を倒して』
急に、マールの声がすっと耳に入ってきた。
(・・・私が斃(たお)される?)
(それは、あってはならないことだわ。)
『すまない、姫。君ばかりに責任を押し付けてしまって・・・。』
国王の言葉がフラッシュバックする。
確かこれは、ヒメが初めて毒を飲み、高熱を発して倒れたときだ。
(いいえ、お父さま。私は最強の盾であることを誇りに思っているの。)
『ごめんなさい、姫。外に出たいでしょうに。』
これは王妃の言葉。
ヒメが10歳の誕生日を迎えたときだったか。
(お母さま、神殿が私を護るためにあるって、ちゃんと分かっているわ。)
ヒメはセラフィールド王国の最強の盾にして、最大の弱点だ。
ヒメが斃れれば、国が倒れる。
神殿は、ヒメを隠すための箱庭なのである。
『姫さま、しっかり自覚を持ってくださらないと。』
これは、侍女が幼いヒメに言った言葉。
(私は、これ以上になく自覚しているわ。)
だから、神殿を出たの。
(絶対に、セラフィールド国民は、私が護ってみせる。)
・・・私は屈したりしない。
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