第1章

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朝になって部屋に戻った私は、必要な物だけ引っ張ってくると、その足ですぐ不動産屋に向かった。 会社には先に休む旨を伝えておいたが、理由を聞かれた時、お化けを見たから…とはさすがに言えなかったので、体調不良を理由にした。言い訳するつもりはないが、体が怠いのは事実だ。 今まであれが風呂桶や洗面器から私のことを見ていたかと思うと…身震いする。 どうにか即入居可能な物件は見つかった。新居は前のアパートとそれほど離れた場所ではない。近所の不動産屋に駆け込んだから、必要な条件を当てはめていくとどうしても似通った場所になってしまう。 前の所より部屋は狭く、家賃も三万を超えてしまったけど、あんな得体の知れないものと同居するより遥かにましだ。 前の部屋には戻る気がしなかったので、勿体無いが家具とかはハウスキーパーに頼んで全部処理して貰った。元々生活感の無いような部屋だったので私物は少なかったとはいえ、新居に家具の揃え直し、ハウスキーパー諸々と大出費だ-- あれから何事もなく一週間が過ぎた。 連日シトシトと続く嫌な雨に滅入りながら、私は憂鬱な会社への道を行く。 この通りは前のアパートから最寄り駅に向かう一番の近道なので、今もこうして使っている。 何気なしに傘を上げると、前のアパートの白い屋根に目を遣り、私は後悔することになる。 あぁ…どうして勝手に決め付けていたのだろう。『あれ』があの部屋に棲んでいると… 白い屋根一面に映る巨大な顔は、軒先から滴り落ちて崩れていく。まるで水に溶けていくように、ゆっくりと…私のマンションの方へ漂っていく…
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