第1章

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見られてる… この家に引っ越してから、時折視線のようなものを感じることがあった。 初めはただの錯覚だと思っていた。体だけじゃなく頭も疲れてるから、そんな風に思ってしまうのだと。でもそれは…一度や二度のことではなかった。 もしかしたら盗撮でもされてるんじゃないかと疑って専門の業者に部屋を検査してもらったのが先週の事。 結果は当然だけど、何も出てこなかった。それでやっぱり疲れてただけなんだと安心していたのに… 今、私は髪を洗っているところだが、確実に何かの気配を感じる。 元来オカルトの類とは一切縁が無かったのに、はっきりと分かる。 全身から鳥肌が立ち、体は何時の間にか冷え切っていた。正直…目を開けるのが怖い。 だけど、いつまでも『そんなもの』と同じ空間には居たくないから、私は思い切って瞳を開く。 取り敢えず、目に見えて何かが起こっている様子はない…けど、どことなく息苦しく感じられる。それは蔓延する湯気だけが原因ではないと…思う。 とにかくここから出よう。私の頭はそれだけで一杯だ。 …待った。湯気? そうだ、忘れてた!風呂の給湯器!これを止めないとそれこそ目に見えて怖いことになる… 私は嫌々ながらも、停止ボタンに手を伸ばす。 「わ!?」 煮立つ浴槽に揺らめく陰が映り、私は深夜にも拘わらず大声を上げてしまった。 なんだ…自分の顔が映っただけか。心臓が飛び出すかと思った…我ながら情けない。 いや、ちょっと待って…なんで今すぐに『顔』だって認識できた?浴槽はこんなに煮立ってるのに… そう思った瞬間-- 今までブクブクと沸騰していたのが嘘のように浴槽が静まり返り『それ』の姿がはっきり見えた。 私ではない… 女だ。 異常に髪の長い、女だ。 前髪で隠れているため、表情はよくわからないけど、ニタァっと、気味の悪い笑いを浮かべた。 そして、口が段々広がって、際限ないくらい広がって、遂に千切れたと思うと、端の方からまるで入浴剤のように浴槽に溶けていった。 「あああぁぁぁあぁあー!!?!?」 そのあとの事はよく覚えてない。気付いた時には全裸に近い状態で交番に保護されていた。
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