第1話

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 高校1年の4月の下旬。  私は、彼と出逢った。  昼休みに私が渡り廊下を歩いていたら、中庭の池の縁にしゃがんでいる彼が見えたのだ。  彼は気配を察したのか、振り返って私を見た。私は彼の手の中に隠すように収められた物を見てしまった――  「愛香ちゃん」  名前を呼ばれて、立ち止まった。振り返って、一緒にいた友人の由子がハッと息を呑む。  声を掛けてきたのは、3年の斉藤先輩だった。赤毛混じりの黒髪に、緑色の目、整った顔立ちから、女子の間で人気がある。  「斉藤先輩」  彼は私の元へと歩み寄って来る。自信に満ちた立居振舞いを見れば、確かにイケメンだなと思うけれど。  斉藤先輩は、由子に流し目をやると、サラッと私を壁に追いやり、私の両側に手をついて退路を絶った。顔を近付けられて、脱け出すことも出来なくなる。  「この前の返事まだ?」  「お断りしたはずですけど」  「うん、僕に都合のいい返事まだ?」  にこやかに追及してくる先輩。彼は更に顔を近付けて来た。顔と顔の距離はもう、5cmとない。
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