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目の前で戸惑う真美を見て、慌てて取り繕うとする僕が罪悪感を抱いている証拠である。
「あとは、一緒にいて楽かってことだよね?」
「確かに、それは大事だよね」
「前の彼女はそれが完璧にできてたから本当に楽だったよ」
馬鹿野郎、なんでまた僕は元カノの話を……。
取り繕おうとするほど口が勝手に余計なことはしゃべる。
まるでパペット人形のように誰かに操られているかのようだ。
なぜこんなことを話すのか、説明するまでもない。
元カノのことを引きずっているのだ。
それが真美にばれていないことを祈りながら様子をうかがう。
「そうなんだ」
大した反応が返ってこないのは、きっとなんて言っていいかわからないからだろう。
僕が買ってあげたアイスラテを飲み干した彼女は、腕時計を見て僕に残念そうに笑いかけた。
「ごめん、そろそろ行かないと、夕ご飯の時間があるから」
「あ、そうなの?でもさ、近くにおいしいラーメン屋があるんだ。よかったらそこに……」
「ごめんね、今日はお家で食べるってお母さんに伝えちゃったから……」
そう申し訳なさそうな表情を浮かべていう彼女は、さっそく席を立つ準備を始めている。
彼女は目の前に広げられたノートと参考書をかばんにしまった。
一緒に資格の勉強をしようという名目で僕が連れ出したのにも関わらず、僕の目の前には参考書の類が一切置かれていない。
「まだ雨降ってるよ?」
外は急な夕立で大粒のしずくが無数に降り注いでいる。
しかし彼女は席を立った。
「大丈夫、私雨の中を歩くのが好きなの」
「あ、そうなんだ」
「アイスラテ、ごちそうさま。また今度ね」
そういって彼女は店から立ち去って行った。
彼女が見えなくなるのを確認してから、僕も席を立つ。
傘があるのが役に立たないくらいの強い雨。
その中をわざわざ彼女が帰っていった意味を、僕は考え続ける羽目になった。
帰り道は歩いて20分くらいである。
真美が家に着くころであろう10分後にラインを送ってみたが、彼女から返信はない。
どうやら本気で怒らせてしまったかもしれない。
しかし今更謝るのもおかしいし、何に対して謝罪していいかわからないから、とにかく放っておくことにした。
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