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祖母があきれたような口調で続ける。
「誰だってあるもんじゃないかね?自分のことをよく見せようとして格好つけるけれども、それが自分に追いついていかないんだ」
祖母の言っていることが、なんとなくわかる気がした。
それと同時に、「口がすべって」の歌詞が頭に流れる。
口がすべって
君を怒らした
でも間違ってないから
謝りたくなかった
エゴ、強がり、そして意地の張り合い。
70年前日本を滅亡の危機に陥れた戦争の原因は、現代人の心の中に今でも渦巻いている。
それはたとえ戦争という形で表れていなくても、毎日のやり取りの中で僕たちの生活を非常に生きにくいものにしていることに変わりはない。
そして自分で自分の首を絞めていることに、決して誰も気が付かない。
いや、気が付いているけれども、それを素直に訂正する勇気を持ち合わせている人が少ないのだろう。
自分が悪いと分かっていながらも謝る勇気を持ち合わせていない僕らは、毎日誰かを傷つけながら生きている。
そう思った瞬間に、真美の顔が頭の中に浮かんだ。
決して自分に非はないというような顔をしながら、自分のエゴに縛られて、真美のことを傷つけてしまったと分かっていながらも謝ることができない自分。
そう思った瞬間に、自分のことがものすごく間抜けに思えた。
「じゃ、僕行くから」
そういって僕は立ち上がる。
「どうした?今日はすぐに行くんだね。何かあったのかい?」
「別に何もないよ。また来るから」
ほら、そうやって強がって。
「そうかい。気をつけて帰るんだよ」
祖母の家を出たとき、携帯の着信があった。
開いてみると真美からのメッセージだ。
『あわただしく帰っちゃってごめんね。今日は勉強に付き合ってくれてありがとう』
社交辞令なのか、本当にそう思っているのか。
今日の彼女は明らかに僕と一緒にいた時間を楽しんではいなかった。
それなのにこんなメッセージを送ってきてくれるということは、まだ僕と一緒にいてくれてもいいと思っていてくれているということなのだろうか。
「今度はラーメン付き合ってよ」
そうメッセージを打ってみると、スタンプでオーケーサインが返ってきた。
これは、今日の僕の行いは許してもらえたということなのだろうか。
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