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後から聞いたところによると、目を覚ました浩二は驚愕する関係者に必死の形相で僕のことを話し、橋へ救急車を向かわせたらしい。
目が覚めると、隣のベッドに浩二がいた。
繋がれていた点滴が減っていて、呼吸器も簡単なものに変わっていた。
まだ話せなかったが、表情で僕らは確認しあった。
やり遂げた。
あの深い水淵から、僕は彼を取り戻したのだ。
達成感に満たされた僕は、そこから数日眠り続けた。
1年ぶりに僕は悪夢を見なかったと思う。
僕は、やり遂げた!
けれど、
目を覚ました直後から、何かが胸に引っかかっていた。
母が退院の手続きをしているのを待合室でぼーっと眺めている時、
それは起こった。
僕は突然胸を鷲掴みにされたような気持ち悪さに、
のたうち回りそうになった。
大事な何かを置き忘れてきたような、そしてその大事ものが何かを不覚にも忘れてしまった時のような。
なんだこの感じは!?
僕は目を閉じる。
まぶたの裏を轟々と真っ暗なところを激流が流れていく。
何もかもを運び去ってしまうかのような巨大な流れだ。
僕は何を引き上げ、何を放ってしまったのだろう。
引き上げたものは、浩二だ。
では、代わりに何を?
何かが意識の淵まで上がってきた。
いや、誰かだ。
けれど、
名前が出てこなかった。
僕は駆けつけた救急隊員に保護された。
僕一人、病院に運ばれ、僕一人、聴取を受けた。
僕一人?
僕は駆け出していた。
母が目を丸くして僕の後ろ姿を見送る。
靴が地面を蹴るたびに胸と顎から鈍痛が、がつんがつん、と頭に響く。
走れ、走れ、と僕に叫ぶかのように。
了
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