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橋の上から見ると、なぜその川が黒蛇川と呼ばれているのかがわかる。
白髭山の針葉樹林やその山並みを縫い込むようなアスファルトの山道、
真っ白なガードレールや河原の石英、
その上に照りつける太陽光が視界の果てまで目のくらむような眩い景色を作り上げている。
金属的な夏色に輝く風景の真ん中を、
黒々とした一本の線がうねっている。
真夏の日差しすらのみ込んでしまうほど深く、
それでいて穏やかな流れの黒蛇川は、
じっとみていると天地がひっくり返ってしまったかのような不思議な錯覚を、僕に感じさせた。
太陽に熱された欄干にそっと手をかけ、首を伸ばして下を覗き見る。
川から立ち上ってきた熱風が顔を撫でる。
橋の上から真っ暗な水面まで、たしか約5秒。
頭の中で自分の体重と加速度を計算したら吐きそうになった。
「早よせい、グズ!」
浩二の甲高い声が背後から飛んできた。
「それとも突き落とされたいんか!」
周囲のセミの大合唱を突き破って彼の声は耳に突き刺さってきた。
ここに来るまでに準備してきたはずの決意は跡形もなく崩れ去っていた。
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