第1章

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一人暮らしの若い女性。 頭を洗っていると、背後に感じる何かの気配。振り返ってみるが何もいない。 恐怖を感じながらも湯船に浸かる。何気なく見た水面に映る白い顔。 心霊番組なんて見るんじゃなかったな。 頭にシャンプーを泡立てながら恵子は後悔した。 一人暮らしの若い女性。そのシチュエーションは今の恵子にぴったりと当てはまっていた。 過敏になった神経が起こす錯覚か、今まで気にならなかった蛇口から滴る水音や鏡までもが恐怖の対象に思えた。 頭の泡を洗い流す僅かな間でも、恵子は何度も背後を振り返った。 張り詰めた空気に耐えられなくなり、バスタブの縁に置いておいた携帯電話を手に取った。 もし、本当に幽霊が出る事があれば友人に電話をしようと、御守り代わりに持ち込んだのだ。 データフォルダを開いて好みのポップスを大音量で流した。 浴室の壁を跳ね回るアップテンポの音楽。緊張が和らぎ、不安が一気に薄まった気がした。 恵子は緩慢な動作で湯船に身を沈めると、大きく息を吐いた。 お湯に身も心も溶けていく感覚。一日の疲れが急速にほぐれていく。 しばらく目を閉じて虚空に意識を漂わせていたが、ふと、水面のくだりを思い出した。水面に映る白い顔。 恵子はゆっくりと目線を落とした。怖い、しかしだからこそ、怖いもの見たさの好奇心が抑えられなかった。 揺れる水面。 自分の顔と目が合った。 恐怖に強張った顔がおかしくて、思わず声を出して笑った。 何も映らないじゃない。 わたしったらバカみたい。 笑いながら水面を叩いた。 あれ……? 水面が歪む瞬間、何かを見た気がした。自分の顔ではなく、その奥の天井、通気口の網目。 幽霊じゃない。それよりもずっとたちが悪いもの。
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