滑る

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「ただいまー」 男は家の中に向かって声をかける。 返事は帰ってこない。 この広い一軒家に住んでいるのは今この男1人である。 去年妻に先立たれ子供達も皆独立し家庭をそれぞれ持っていた。 男は風呂を沸かし夕食の準備をしながら、妻が生きていた時のように話し続ける。 「バナナの皮というのは本当に滑る物なのだね。 出勤途中歩道にバナナの皮が落ちていて、それを踏んだ若い娘さんがスカートの中が丸見えになるほどの大股開きでステンと転んだのさ、朝から良いものを見せてもらったよ。ハハハ…… え、転んだ娘さん? 大丈夫だったよ、後ろを歩いていた数人のサラリーマンや学生が支えたから」
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