第1章

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 ですが……  残念なことに今年は条件に合致する年となってしまいました。  村は現在異様な緊張感に包まれています。  ただ幸いなことにまだ誰もいなくなってはいません。  しかし、私にはとても気掛かりな事があります。  それは、迷信の条件に合致した日から今日に至るまでの三日間、白霞泉の夢を見続けていることです。  木々に覆われ静まり返った泉の畔に私は立っています。霞がかった泉の向こうから得体のしれない黒い影のようなものが、水面を歩きこちらに近付いてくるのです。  ピチャッ   ピチャッ   ピチャッ  少しずつ……  ピチャッ   ピチャッ   ピチャッ  少しずつ……  ピチャッ   ピチャッ   ピチャッ  ハッ……  このタイミングでいつも目が覚めます。  そして更に気掛かりなことは、夢を見る度この影は着実にこちらに近付いてきているのです。  実は今もこの夢で目が覚めたところでした。  今日はついに間近まで迫った影が、私を憑り込もうと覆い被さろうとした瞬間、目が覚めました。  目が覚めた瞬間、私はもうこの世にいないのではないか、その焦りで必死に辺りを見回しました。  ですが、幸いなことにそこはなんの変哲もないいつもどおりの私の寝室でした。  正直、心からほっとしました。  フッ……と息をついた後、私は全身脂汗でビショ濡れになっている自分がおかしく思えました。  そうだよ、ただの迷信だよ。そう思いました。迷信をあまりに気にし過ぎたせいであんな夢を何度も見たのだと思います。  まだはっきり安心できるわけではありませんが、もうあんな迷信を気にするのはやめにしようと思います。  さあ、もう一寝入りしよう。そう思った時、何者かが私の耳元でこう囁きました。 「迎えに来たよ……」
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